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執筆者の写真tarokoike

Steve Morseという音楽家のこと(後編)

前編ではスティーヴのキャリア形成期、中編では発展期を取り上げましたが、今回の後編では、一般には人生の集大成期とも言える50歳代以降から現在までを取り上げます。


40歳代後半から50歳代の前半に相当する2000年代に入ると、スティーヴは安定したDeep Purpleでの仕事の傍らに、自身のルーツであるDixie DregsやSteve Morse Bandの活動も続け、さらに様々な新しいサイド・プロジェクトも展開して来ました。


この流れは2011年、スティーヴが57歳の時に、Dixie DregsとSteve Morse Bandに続く三つ目のオリジナル・バンドであるFlying Colorsの結成に繋がります。


【目次】

1.Dixie Dregsの結成(1975年、21歳)

2.ソロ活動とSteve Morse Bandの結成(1983年、29歳)

3.Kansasへの加入(1986年、32歳)


II. 中編

4.Steve Morse Band / Dixie Dregsの再開(1988年、34歳)

5.Deep Purpleへの参加(1994年、40歳)

6.多様性の追求(2000年代、40歳代後半)

  • マヌエル・バルエコとの共演(2001年、47歳)

  • Living Loud(2003年、49歳)

  • 『Major Impacts』シリーズ(2004年、50歳)

  • Angelfire(2007年、53歳)


III. 後編

7.Flying Colorsの結成(2011年、57歳)

8.第1期Dixie Dregsの再結成(2018年、64歳)



.Flying Colorsの結成(2011年、57歳)

2011年、スティーヴはプロデューサーのビル・エヴァンス(Bill Evans)の誘いを受け、ベテランのマルチ楽器奏者であるニール・モース(Neal Morse, Key.)、アイデア・マンとしても飛び抜けた人物であるDream Theaterのマイク・ポートノイ(Mike Portnoy, Ds.)、長年の盟友であるデイヴ・ラルー(Dave LaRue, Ba.)、そして期待の若手シンガーソングライターであるケイシー・マクファーソン(Casey McPherson, Vo./G.)と共に、Flying Colorsを結成しました。


このバンドはこれまでに『Flying Colors』(2012年)、『Second Nature』(2014年)、『Third Degree』(2012年)の3枚のスタジオ・アルバムと、それに伴い行ったツアーを収録した3枚のライヴ・アルバム&Blu-Rayをリリースしています。


3rdアルバムのリリースに付随したライヴアルバム『Third Stage: Live In London』の収録後にパンデミックに見舞われ、活動の一時停止を余儀なくされましたが、2024年3月にはCruise to the Edgeにて5年ぶりの再活動をスタートしました。


ポップな聴き易さと、マニアックな超絶技巧が上手くブレンドされた曲調が特徴で、Dixie DregsやSteve Morse Bandの流れを汲むインストゥルメンタル・プログレッシブ・ロックの技法と、Deep PurpleやAngelfireなどの流れを汲むヴォーカル・ライティングの技法が見事に調和した、スティーヴの音楽家としてのキャリアの集大成とも言える素晴らしいバンドと思います。


嬉しいことに、このバンドについてはレーベルのYouTube公式チャンネルに公開された「Flying Colors - Third Stage: Live In London」を始め、高画質・高音質なライヴ映像の多くをYouTube上で楽しむことができます。


Flying Colors - The Storm (Live Music Video)(2013年、59歳)


レパートリーが少なかった結成当時のライヴでは、それぞれの出身バンドのカバー曲も演奏されていました。


このDixie Dregsの名曲「Odyssey」は、Dream Theaterのアルバム『Black Clouds & Silver Linings』(2009年)でカバーされており、そこにはヴァイオリンにジェリー・グッドマンが参加しています。


Flying Colors - Odyssey (Live In Europe)(2013年、59歳)


「Better Than Walking Away」では、ゆったりしたバラード曲の中で、コンパクトながらエモーショナルで堂々としたスティーヴのギターソロがとても印象的です。


Flying Colors - Better Than Walking Away (Live in Europe)(2013年、59歳)


これは地元フロリダのフォート・ローダーデールで行われたSteve Morse Bandのライヴです。2009年にリリースしたSteve Morse Bandの現時点での最新作『Out Standing In Their Field』からの曲を聴くことができる、数少ないフル・コンサート動画です。


Steve Morse Band(2013年、59歳)


こちらはDeep Purpleでの2014年の武道館公演の映像です。スティーヴのギターの見せ場として、Contact LostとThe Well-Dressed Guitarも収録されています。


2015 Contact Lost(2015年、61歳)


2015 The Well-Dressed Guitar(2015年、61歳)


これはスティーヴの超人的なピッキング・テクニックを映像で捉えて分析している動画で、ギター学習者には貴重な情報かと思います。


Steve Morse Lesson: Arpeggio Picking (The Steve Morse Interview, Chapter 6)(2015年、61歳)


Dream Theaterのギタリストであるジョン・ペトルーチがスティーヴ・モースの大ファンであることは有名な話ですが、これはNAMM 2017での二人の対談を収録した動画です。


二人ともバンドのマネジメントが同じで、ギターもアーニーボール・ミュージックマンのシグネチャー・モデルを使っている点も共通のため、共同のイベントを多く行っているそうです。二人の対談記事は、以下のものを始めとしていくつかあります。


By Joe Bosso published 29 June 2022


John Petrucci and Steve Morse in Conversation at NAMM 2017(2017年、63歳)


以下のような面白動画はあります。


Paul Gilbert, Steve Lukather, John Petrucci & Steve Morse Crash the Ernie Ball Stand!(2017年、63歳)



8.第1期Dixie Dregsの再結成(2018年、64歳)

2018年には、スティーヴの他にアンディ・ウェスト(Ba.)、アレン・スローン(Vln.)、スティーブン・デヴィドウスキ(Key.)、ロッド・モーゲンスタイン(Ds.)という、1stアルバム『Free Fall』(1977年)リリース当時のオリジナル・メンバーでのDixie Dregsが一時的に再結成され、3月から4月に掛けて約2ヶ月間、米国本土の20数箇所を巡るツアーを行いました。


この再結成ツアーでは、これまでライヴで演奏されることが少なかった Unsung Heroes』(1981年)収録の「Day 444」など、珍しい曲も演奏されていました。


2018 Dixie Dregs Live from the Bearville Theatre in Woodstock, NY on the Dawn of the Dregs Tour(2018年、64歳)


2019年にはFlying Colorsの3rdアルバム『Third Degree』がリリースされ、翌年に掛けて行われた一連のライヴはCDおよびBlu-Rayでリリースされました。以下はそれらの一部です。


Flying Colors, The Neal Morse Band – Morsefest 2019 Disc 1(2019年、65歳)


「Peaceful Harbor」では、曲の最後の盛り上がりでスティーヴの2分間近い長尺のギター・ソロを聴くことができます。


Flying Colors - Peaceful Harbor (Third Stage: Live In London)(2020年、66歳)


Flying Colorsは3枚のスタジオ・アルバムのいずれも、プログレ・バンドらしい10分間を超える大作で締めくくっていますが、2020年のライヴを収録した『Third Stage: Live In London』では、それら全ての演奏を楽しむことができます。


Flying Colors - Crawl (Third Stage: Live In London)(2020年、66歳)


Flying Colors - Infinite Fire (Third Stage: Live In London)(2020年、66歳)


Flying Colors - Cosmic Symphony (Third Stage: Live In London)(2020年、66歳)



9.Deep Purpleからの脱退と、ルーツへの回帰(2022年、68歳)

2022年7月、闘病生活を送る妻ジャニーンに付き添うため、スティーヴは28年間在籍したディープ・パープルからの脱退を表明しました。


翌2023年2月には、スティーヴ流のギターソロの組み立て方を詳述した30年ぶりの著作『Steve Morse: Melodic Rock Guitar Concepts: Master Melodic Rock Soloing with the Dixie Dregs & Deep Purple Guitar Virtuoso』を出版しました。


スティーヴは若い頃からクリニックなども積極的に開き、後進の指導に力を入れて来ましたが、この動画はそうした活動の一端を示しています。


Rock and Roll Fantasy Camp Steve Morse Deep Purple Highway Star Practice January 2022(2022年、68歳)


スティーヴについて最近、改めて凄いと思ったのは、その不屈の演奏家魂です。


彼は今、右手首に変形性関節症を抱えるようになり、若い頃に身に付けた手首を使ったピッキング・テクニックが関節の痛みのため殆ど使えなくなってしまいましたが、ギタリスト生命の終わりにもなりかねないこの大問題を克服するために、新たなピッキング・テクニックを複数身に付けているのだそうです。


演奏家にとって、長年親しんできた演奏スタイルを変えるのは簡単なことではありません。しかもそれを50~60歳代になって行っているというのは驚きと言えます。


スティーヴが現在メインで使っている新しいピッキング・テクニックは、故障した手首の動作を最小限にするために腕を肘から大きく動かすというものです。


ギター教室に通ったら「良くない弾き方」の代表例として教えられるような大振りのピッキングですが、これで細かいコントロールを行っているのが凄いです。


しかし、流石にこれでは右手のミュートは十分でなくなるため、どうしても開放弦が鳴ってしまいます。そこで、この新しいピッキング・テクニックをサポートするために、ギターのネック側にON/OFFを簡単に切り替えられるミュートを自ら考案し、それを使っています。


2023年に行われた以下のロング・インタビューでは、マイアミ大学時代のジャコ・パストリアスとの交流などキャリアのスタート時期から最近のことまで幅広い話題が取り上げられていますが、この手首の障害と、その克服方法についても詳しく語られています。


The Steve Morse Interview: From The Dregs, to Deep Purple and Kansas(2023年、69歳)


スティーヴは1975年から趣味で飛行機を操縦しているのだそうです。


早逝した飛行機仲間のメモリアル・イベントの様子を収録したこの動画は、彼の飛行家としての側面や、地元コミュニティに溶け込んだ普通の人としての一面を見ることができますが、ご子息のケヴィン(Kevin Morse)とのデュオ演奏も観ることができる点でも貴重な映像です。


ケヴィンがギターを弾くということは以前から耳にしていましたが、私はこの動画で初めて彼の演奏を聴きました。正確なピッキングを始めとした高度な演奏テクニックはまさに父親譲りの見事なもので、将来さらに大きなステージで彼の演奏を観られることを期待しています。


Celebration of Life - NIKOLAY TIMOFEEV(2023年、69歳)


そして2024年、スティーヴは、本来の自分の音楽であるSteve Morse BandとDixie Dregsを本格的に再起動させました。しかも今回のDixie Dregsは、キーボーディストにDream Theaterの名手、ジョーダン・ルーデスがゲスト参加しているのですから、これは本当に凄いラインナップです。


この記事シリーズの最後に、スティーヴがこの二つのバンドを率いて4/18から5/22にかけて行った“Anachronicity Tour 2024”からの映像のうち、これはと思うものを幾つかご紹介しておきます。


同ツアーの動画はこの記事の執筆中にもどんどん公開されていますので、良いものが見つかったらまた追加したいと思います。


まず、こちらは“Anachronicity Tour 2024”前半のダイジェスト編です。


Steve Morse Band and Dixie Dregs(2024年、69-70歳)


Southern Steel』(1991年)に収録された「Vista Grande」は、デイヴによるとバンドのお気に入りの曲の一つだそうです。スティーヴが弾く主題のゆったりしたメロディが美しく、それを支えるデイブのベースラインも非常に凝っていて面白いです。


STEVE MORSE BAND Performs VISTA GRANDE With a Lot of Tapping on Fretboards in Clearwater, FL 4/27/24(2024年、69-70歳)


ファンによる“Anachronicity Tour 2024”で取り上げて欲しい曲リストのトップに上がっていたのが、『Dregs Of the Earth』(1980年)に収録されたこの「I'm Freaking Out」だったそうです。今回のツアーでは、ジョーダン・ルーデス(Key.)のソロが全面的にフィーチャーされています。


DIXIE DREGS - I'M FREAKING OUT After JORDAN's Incredible Leadin & Rotating Solos in Clearwater, FL(2024年、69-70歳)


こちらはマーク・オコーナー(Vln.)が参加した第1期Dixie Dregsの最後のアルバム『Industry Standard』(1982年)に収録の「Bloodsucking Leeches」を、Steve Morse Bandのメンバーも含めた7人編成で演奏する豪華なバージョンです。


May 14, 2024(2024年、69-70歳)


こちらは機材紹介の動画で、スティーヴはもちろん、珍しいアンディ・ウェスト(Ba.)のインタビューも見ることができます。


Dixie Dregs' Steve Morse & Andy West Rig Rundown Guitar & Bass Gear Tour(2024年、69-70歳)


以下の二つは“Anachronicity Tour 2024”におけるSteve Morse BandとDixie Dregsの、私が5/25時点で見つけた唯一のフル・コンサート動画です。


Steve Morse Band(2024年、69-70歳)


Dixie Dregs Ramkat(2024年、69-70歳)




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