昨年8月からほぼ毎週公開してきたブログも今回でちょうど50回目となりました。
改めて第1回のブログを見ると、「楽譜作成ソフトウェア関係を中心に音楽一般に関する様々な話題を扱っていきたい」と書いていましたが、結果的には今まで楽譜のことばかり書いてきたので、今回は楽譜の話から少し離れて、私が一番好きな音楽家である、ギタリスト/作曲家のスティーヴ・モース(Steve Morse)※について書こうと思います。
※日本では「スティーヴ・モーズ」というカタカナ表記が一般ですが、実際の発音は「モース」が近いです。
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私がスティーヴ・モースの音楽に出会ったのは、大学生の頃にSteve Morse Bandの『Coast To Coast』(1992年)を聴いた時でした。高校時代をバンド・ブームの中で過ごした私たちの世代は、大学生になってもギターを弾く者が多く、その仲間内で最も話題に上っていたのが、Rush、Dream Theater、そしてスティーヴがリーダーを務めるバンドであるDixie DregsとSteve Morse Bandだったのです。
スティーヴ・モースは本国のアメリカを始め、欧米ではとても人気がありますが、何故か日本ではあまり話題になることがありません。
なので、このブログでは30年来の大ファンである私なりのささやかなトリビュートとして、現在公開されているYouTube動画の中から重要なものを幾つかご紹介しつつ、スティーヴ・モースのバイオグラフィをこれらの動画を中心にまとめてみようと思います。
また、現代の成功した音楽家がどのようなキャリアを積んでいるのかを知りたいという一般的な興味もあります。なので、ここでは彼の年齢を追記しつつ、時系列でその業績を整理していきます。
【目次】
I. 前編
1.Dixie Dregsの結成(1975年、21歳)
2.ソロ活動とSteve Morse Bandの結成(1983年、29歳)
3.Kansasへの加入(1986年、32歳)
II. 中編
4.Steve Morse Band / Dixie Dregsの再開(1988年、34歳)
5.Deep Purpleへの加入(1994年、40歳)
6.多様性の追求(2000年代、40歳代後半)
マヌエル・バルエコとの共演(2001年、47歳)
Living Loud(2003年、49歳)
『Major Impacts』シリーズ(2004年、50歳)
Angelfire(2007年、53歳)
III. 後編
7.Flying Colorsの結成(2011年、57歳)
8.第1期Dixie Dregsの再結成(2018年、64歳)
9.Deep Purpleからの脱退と、ルーツへの回帰(2022年、68歳)
1.Dixie Dregsの結成(1975年、21歳)
スティーヴがプロとしてのキャリアをスタートさせたのは、高校時代の同級生であったベーシストのアンディ・ウェスト(Andy West)と共に作ったバンド「Dixie Dregs」でした。
共にマイアミ大学の音楽学部に進学したスティーヴとアンディは、級友であるドラマーのロッド・モーゲンスタイン(Rod Morgenstein)、ヴァイオリニストのアレン・スローン(Allen Sloan)らと共に大学のプロジェクトとして1975にアルバム『The Great Spectacular』を制作しましたが、これが現在も一般に聴くことができるスティーヴの最初の音源となります。
ここに収録されている曲は、その後のDixie Dregsのメジャー・デビュー・アルバム『Free Fall』(1977年)や第2作『What If』(1987年)に収録された曲の母体となるアレンジで、これらの曲の多くはその後のDixie Dregsのライヴでのスタンダード・ナンバーとなっています。
Dixie Dregs: "The Great Spectacular"(1975年、21歳)※音声のみ
こちらは1978年5月30日に行われた、KWFMラジオでのブロードキャスティング・ライヴの音源です。
第2作『What If』に収録され、後にDixie Dregsの代表曲としてDream Theaterにもカバーされた「Odyssey」や、当時高校生であったDream Theaterのギタリスト、ジョン・ペトルーチ(John Petrucci)が圧倒されて即座にスティーヴのファンになるきっかけとなったという、フル・ピッキングによるアップ・テンポのブルーグラス・ロック曲「The Bash」など、これぞDixie Dregsという曲が満載された貴重なライヴ音源です。
Dixie Dregs - 1978 - KWFM Live - Bootleg Remaster - HD(1978年、24歳)※音声のみ
以上は映像なしの音源ですが、こちらはおそらく最も古い映像作品で、1978年7月23日に行われたモントルー・ジャズ・フェスティバルでのライヴ録画です。
カメラはプロ・ショットで、当時ものとしては音質・画質共にかなり状態が良く、今でも十分に鑑賞に耐えられるもので、DVD化もされました。
なお、この動画には末尾に、ヴァイオリン/2ndギターに後にクラシック界でも活躍するフィドル奏者、マーク・オコーナー(Mark O'Connor)が参加した1982年のTVショウ出演時の動画と、キーボーディストにT.ラヴィッツ(T. Lavitz)が参加した1979年ライヴ映像が追加されています。
Dixie Dregs - Live At Montreux Jazz Fest(1978年、24歳)
こちらはマーク・オコーナーが参加した、Dixie Dregsのスタンダード・ナンバーの一つ、Cruise Controlの演奏です。
なお、この曲はDream Theaterの1995年作品『A Change of Seasons』で、ライヴのカバー曲として演奏されたバージョンを聴くことができます。
Dixie Dregs Cruise Control 1981(1981年、27歳)
これはTVショウからの映像で、第1期Dixie Dregs※の最後のアルバム『Industry Standard』(1982年)からの曲が演奏されています。
これほど高い音楽性と演奏力を持ったバンドでしたが、残念ながらこのアルバムを最後にDixie Dregsは解散状態となってしまいました。
※ヴァイオリニストとキーボーディストが交代しているという意味では、1981年以降は第2期と言っても良いかも知れませんが、スティーヴとアンディという二人の中心人物がDixie Dregsの活動のみに専念していた時期という意味で、1982年以前はまとめて第1期と考えた方が分かり易いかなと考え、私が個人的に付けた年代区分です。
Steve Morse - Dixie Dregs - American Bandstand tv show - February 22, 1982(1982年、28歳)
2.ソロ活動とSteve Morse Bandの結成(1983年、29歳)
同じく1954年生まれの超絶技巧ギタリスト、アル・ディ・メオラ(Al Di Meola)は、1977年に発表した自身の第2作『Elegant Gypsy』にて、フラメンコ・ギタリストであるパコ・デ・ルシア(Paco de Lucía)と共演したことをきっかけに、アコースティック・ギターのデュオやトリオの活動をスタートさせました。
それは1981年発表の『Friday Night In San Francisco』で一つのピークを作り上げ、その後に様々な技巧派ギタリストがこのフォーマットでの演奏を始めましたが、1983年にはスティーヴもこれにゲスト参加し、アル・ディ・メオラとパコ・デ・ルシア、そしてスティーヴ自身が大きな影響を受けたというジョン・マクラフリン(John McLaughlin)と共演しています。
残念ながら映像はありませんが、当時行われた二つの公演はYouTube上で聴くことができます。
ゲストとして公演のオープニングを飾るスティーヴのギターソロ・ステージは、クラシック・ギターから始まり、途中でピック弾きのアコースティック・ギターに持ち替えますが、そのアコースティック・ギター・ソロは、スタジオ録音も他のライヴ録音もなく、ここでしか聴けない貴重な録音です。
The Guitar Trio and Steve Morse - Beacon Theater, New York City, New York, USA, 10-7-1983 (Complete) (1983年、29歳)※音声のみ
こちらの音源には、パコによるフラメンコ曲「Palenque」をスティーヴも含めた4人で演奏するという貴重なトラックも含まれています。
The Guitar Trio and Steve Morse - Boston Opera House, Boston, Mass. USA., September 30, 1983(1983年、29歳)※音声のみ
これは時間も2分間弱と短く、画質も音質も良くありませんが、スティーヴが参加したギタートリオを記録した、公開されている中ではおそらく唯一の貴重な動画です。
Guardian Angel rare "guitar trio"(1983年、29歳)
1984年、スティーヴはDixie Dregs時代の盟友であるドラマーのロッド・モーゲンスタイン、ノース・カロライナ州を拠点に活動していたジャズ・フュージョン・バンド「3PM」でベースを弾いていたジェリー・ピーク(Jerry Peek)と共に最初のSteve Morse Bandを結成し、『The Introduction』(1984年)、『Stand Up』(1985年)の2枚のアルバムをリリースしました。
こちらは初代Steve Morse Bandのライヴの全ステージを収録したものとしては唯一の映像です。
Steve Morse Band Koeln 1984(1984年、30歳)
ジェリー・ピークとロッド・モーゲンスタインを迎えた初代Steve Morse Bandの活動はここまでとなりますが、この二人は後の1989年にスティーヴがソロ名義で発表した『High Tension Wires』に参加しています。
3.Kansasへの加入(1986年、32歳)
スティーヴは1985年にアメリカのプログレッシブ・ロックバンドのKansasに参加し、『Power』(1986年)と『In the Spirit of Things』(1988年)の2枚のアルバム制作に参加しました。
スティーヴのKansas時代の映像はあまり多くありませんが、1987年のUS Billboard Hot 100nにて19位にランクインしたヒット曲「All I Wanted」ではスティーヴ・ウォルシュ(Steve Walsh)と共に作曲者としてクレジットされ、そのPVではスティーヴの姿も映っています。
Kansas - All I Wanted (1986)(1986年、32歳)
1988年の収録とされる以下の動画では、ギターだけでなくヴァイオリンも弾きこなすスティーヴの映像を見ることができます。
KANSAS Live In Iceland USO Tour 1988(1988年、34歳)
Kansasに在籍していた1987年~1988年頃、スティーヴは一時的に音楽業界から離れて民間航空会社の副パイロットをしていたそうです。その本格的な活動再開は、1988年の後半となりました。