弊社では過去数コースにわたり、音楽教師や講師も含む一般ユーザーを対象に楽譜作成ソフトウェアの使用方法を教える「フィナーレ集中講座」を開催しており、2024年10月からはこれに続けて「Dorico集中講座」も開催予定です。
今回の記事ではこれらの実務経験を元に、オンライン講座の一般的な長所と短所や、オンライン講座の今後の可能性について考えてみたいと思います。
【目次】
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1.企画面での長所と短所
まずは企画面、即ちコスト面での実施可能性という観点から長所と短所を考えてみますが、結論から言うと、企画面においてオンライン講座を対面型講座と比較した場合、思い付くのは長所のみで、短所は殆どないと言って良いかと思います。
1−1.オンライン化以前の対面型講座
弊社が開催している「フィナーレ集中講座」のルーツは、コロナ禍直前の2019年夏に私が企画立案を担当させて頂いて開催した、対面型の同名講座に遡ります。
コロナ禍以前はオンライン講座の開催は一般的ではなく、音楽制作ソフトウェアの販売元が提供する講座と言えば、担当社員が出張講師を務めて大学等の教育現場や楽器店と協力して開催する講座や、会議室やイベント・スペースなどを使った自社企画の講座が主でした。
これらの対面型講座は、いずれも人やモノの移動を伴うため、受講者側としては地方在住などで都市部の会場まで通えない場合は参加できないこと、主催者側としてはスタッフおよび機材の移動費や、場合により宿泊費や会場費も掛かり、最終的にチケットや商品の販売によってそれらのコストを回収できる見込みがない場合は開催自体が不可能という短所がありました。
1−2.コロナ禍による変動と、「フィナーレ集中講座」のオンライン化
2020年初に始まったコロナ禍により、従来の対面型講座は全く開催できなくなるという異常事態が長く続きましたが、これを契機に世間ではオンライン・コミュニケーションの技術が急速に発展し、講座については特にZoomを用いたオンライン講座が広く普及することになりました。
講座のオンライン化により、人とモノの移動に掛かるコストが基本的に0になり、主催者側としては配信場所とスタッフや講師が確保できる日時であればいつでも講座を開催でき、受講者としてはネットワーク環境さえあれば、どこに住んでいようと自宅で講座を受講できるようになりました。これは企画面におけるオンライン講座の長所と言えます。
実際、フィナーレ集中講座はオンライン化の後、参加者に占める東京圏以外の在住者の割合が毎回概ね8〜9割以上を占めるようになり、現在に至っています。
1−3.オンライン講座の短所は?
企画面におけるオンライン講座の短所としては、視聴デバイスやインターネット環境といったオンライン環境を用意できない場合は参加できないということが挙げられます。(しかしこれは家族や友人の支援を得ることで解決可能で、根本的な短所という訳ではありません。)
2.運営面での長所と短所
時間と空間に縛られない、コストを抑えられるという企画上のメリット以外にも、オンライン講座には運営上のメリットがあります。
2−1.視聴環境を個人向けに最適化できる
ソフトウェアの使用方法を学ぶといった講座の場合、対面型講座ではパソコンのデスクトップ画面をプロジェクターや大型ディスプレイで教壇の後ろに表示させるスタイルが普通ですが、これには教室内の受講者の席によっては画面が遠くて見にくくなり、場合によっては最適なオーディオ環境の構築が困難といった問題があります。
しかしオンライン講座の場合は、受講者は手元のパソコン画面にて、講師がシェアするソフトウェアの操作画面をあたかも自分が操作しているのと同じ画角と解像度で見ることができ、オーディオ環境も視聴者がそれぞれ普段用いるものを使うことができます。これらは対面型ではやや実現困難な、講座をオンラインにて受講することのメリットかと思います。
2−2.補助教材動画の活用と、反転授業の試行
主にオンラインで提供する動画を活用した新しい講座のあり方として弊社が注目し続けて来たのは、反転授業という手法です。
これは、自分の学習状況に合わせて再生速度を変えられる、同じ内容を繰り返し視聴できるといった動画教材の特性を活かした授業法で、受講者は予め動画教材を用いて自分のペースで予習し、その後に受講する講義ではより深い学びを追求することができます。
実際に反転授業スタイルを取り入れて弊社自身が学んだのは、苦労して用意した予習用動画よりもむしろ、復習のために提供した講義内容を収録した復習用動画の方が需要が大きかったことです。
毎回のコースで紹介しオーディエンスが増え続ける予習用動画に対し、復習用動画はその日の受講者数名のみしか視聴できないにも関わらず、1週間あたりの視聴回数は平均して予習用動画の2倍近くに達しました。
これには、フィナーレ集中講座の受講者は基本的に社会人であり、予習用の動画は例えそれが1本あたり数分間程度にまとめたものであっても講義前の限られた期間内で視聴する時間を確保できないという事情があったようです。
また、多忙な中で同じ視聴時間を費やすのであれば、講義後に一定の理解を得た上で復習用動画を見た方が効率的という考え方があったのかも知れません。
このため、フィナーレ集中講座では反転授業の本来のコンセプトには固執せず、しかし動画教材のメリットは活かすべく、予習用動画の代わりに復習用動画を充実させる形に方針転換しました。
具体的には、視聴期間無制限でYouTubeに限定公開した復習用動画に、例えば「00:32:56 不完全連桁ツール」といった目次を細かく設定することで、視聴者がブラウザのキーワード検索で見直したい箇所にすぐにアクセスできるようにしています。
これは準備に数時間が掛かる作業となりますが、受講者の利便性のみならず、主催者側としても将来より良い講義を提供するための重要な資料となるため、これを毎回の講義後に必ず行っています。
2−3.講師と受講者とのコミュニケーションを円滑にするために
オンライン講座の短所としては、講師と受講者とのコミュニケーションの密度が低くなるために、講師としては受講者の理解度を探るための反応を得にくくなることがあります。
特に参加者の理解度や習熟度にばらつきがある場合、オンライン講義では対面型に比べてこのケアがしにくくなる可能性があります。
フィナーレ集中講座をオンライン化した当初はこれを補うため、Zoomの機能であるブレイクアウト・ルームを用意しましたが、個別の質問に対する回答は全体に共有した方が有益である場合が多いということが分かり、結局ブレイクアウト・ルームの使用は2回目以降は廃止しました。
その代わり、コスト安で開催できるようになったことを背景に、オンライン講座では対面講座にて最大8名としていた定員を通常4名・最大6名に減らし、後日に電子メールにて個別のやり取りを行うなど、受講者とのコミュニケーションを別の手段で充実させています。
3.結論と今後の可能性
ここまでの考察結果を表に取りまとめると、このようになるかと思います。
オンライン講座は、対面型講座と比べてコスト・パフォーマンスが高いことから、特にソフトウェアの使い方やそれを活用した作編曲など、パソコンの画面上で完結できる分野の授業においては、今後その使用が拡大すると思われます。
学校での音楽授業の現場では「ソフトウェアを学んで授業に活用したいが学ぶ時間がない」という声も少なからず聞かれますが、今後はより高品質なオンライン講座の普及により、音楽教育現場に携わる先生方がソフトウェアを効率的に学ぶ機会が増えることで、より良い音楽教育の基盤作りに貢献できるのではないかと考えています。