前回の記事「FinaleはMacユーザーをないがしろにしている?」では、アプリケーションの開発におけるmacOS対応の問題について書きましたが、では何故、macOSはWindowsと比べてバージョンアップの頻度が高いのでしょうか。今回はこれについていろいろ調べたり考えたりしたことをまとめてみます。
・macOSのバージョンアップ頻度の高さと、その理由
OSのバージョンアップの頻度は、Windowsが7(2009年10月)、8(2012年8月)、10(2015年7月)、11(2021年10月)と3年間以上のスパンで提供されているのに比べ、Macの場合はMac OS X 10.0(2001年1月)の頃から既に1〜2年ごと、Mac OS X 10.7 Lion(2011年7月)からは現時点で最新のmacOS 13 Ventura(2022年6月)、さらにこの秋にリリースされると言われるmacOS 14 Sonomaに至るまで毎年新バージョンがリリースされ続けていて、Windowsとmacではリリース頻度が全く違うことが分かります。
一般に、OSのバージョンアップの理由の一つとして大きいのはセキュリティ対策ですが、それだけではこのリリース頻度の違いを十分に説明できません。いろいろ調べてみると、これは各OSを提供するMicrosoft社とApple社の製品開発や販売戦略の違いも大きな理由となっているようです。
Microsoft社が提供するWindowsは、企業や公的機関などで幅広く採用され、またWindowsを使用するパソコンの提供には、日本のパソコン・メーカーも含めて多くの企業が参入しています。そのため、セキュリティの強化を重視しOSのバージョンアップを行いつつも、OS環境の変化が多様なユーザーの利便性になるべく影響を及ぼさないようにするために、バージョンアップの頻度は最低限としているようです。
これに対して、Apple製品は基本的にハード環境とソフト環境の統合を重視しており、現在のmacOSはApple社が提供するハードウェア上のみでしか動作しません。macOSは、セキュリティの強化はもちろん、新機能の提供および改善、ハードウェアとの統合、差別化を図るためのイノベーションの提供といった理由でもOSのバージョンアップを行うため、結果としてOSのバージョンアップの頻度はWindows OSよりもmacOSの方が高くなるというのが実態のようです。
・バージョンアップ頻度の高さがアプリケーション開発に与える影響
アプリケーション開発者からみると、OSのバージョンアップの頻度の差は、開発コストを左右することになります。
楽譜作成ソフトウェアFinaleもそうですが、あるOSの新バージョンが提供された場合、アプリケーション側はそれに適合するためのプログラム上の調整はもちろん、それが正常に機能するかどうかを確認するためのテストも行う必要があり、結果として同じアプリケーションでも、OSのバージョンアップ頻度が高いMac版の方が開発コストは上がります。
このように考えると、前回記事で言及したMac OS X 10.11 El CapitanでのFinale 2014で発生した強制終了問題は、Mac OS X新バージョンへの適合という困難な仕事での残念な失敗事例、同時期にFinaleの機能簡略版PrintMusicや無料版NotePadのMac版が相次いで開発および提供が終了となったことは、ユーザー数が相対的に少ない割に開発コストが掛かり過ぎるMac版製品開発からの撤退、というのが実態だったのかも知れません。
(これはFinale開発元のMakeMusic社がMacユーザーをないがしろにしたのではなく、結局のところ高過ぎるMac版アプリケーション開発のハードルを越えられなかったということなのかなと、個人的には思います。)
・エンドユーザーとして、このコストをどう捉えるか
開発コストの高さや、macOSとの相性によって時として生じる動作不良といったリスクが比較的大きいのがMac版アプリケーションの問題点と言えますが、例えばFinaleを取り上げてみても、ハードウェアやOSとの親和性から来るユーザー・インターフェースの使い易さはWindows版よりもMac版の方が優れている面が多いように見受けられ、やはりMac版を使いたいという人は今後も一定数が存続するのだろうと思います。
アプリケーションのエンドユーザーとしては、こうした利便性とリスクを天秤に掛けながらMac版とWindows版のどちらかを選ぶことになりそうです。
Mac版を選んだ場合はmacOS対応が頭の痛い問題となりますが、これはアプリケーションの動作環境に常に注意してmacOSの不必要なバージョンアップを可能な限り避ける、アプリケーションについては最新のmacOSに対応した新バージョンを買い続けるといったことが、Windows版以上に重要となります。
気になるのは、今後のMac版アプリケーション開発の動向です。Appleではハード環境とソフト環境を統合する動きがますます強くなっているようにみえ、様々な面で先行きの不透明感が強まる昨今の世界経済の動向を踏まえると、開発力が不足し、これに追従できなくなるアプリケーションは今後も増えるのではないかという危惧を感じます。
Macユーザーとしては、そうした動向にも注視しながら、自分が長く使えるアプリケーションを慎重に選びつつ、さらにそれがダメになった場合に備え、一つのツールに頼りすぎず、複数の製品の長所を組み合わせた使い分けを基本とした制作スタイルを確立していった方が良いのではという気がします。