米国時間2024年8月26日付けで、楽譜作成ソフトウェアFinaleの開発元MakeMusic社より、その開発および販売終了の告知がありました。
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【2024/11/8更新】この記事には続編があります。宜しければ以下をご覧下さい。
また、本記事の末尾にはDoricoクロスグレード版を日本のSteinbergオンラインストアで購入した際のFinale v27英語版の入手方法についても追記しました。
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MakeMusic社ではDoricoへの乗り換えを推奨しており、Dorico開発元のSteinberg社からも今後、これを支援する様々な情報が提供されるようです。
そのうちの一つとして重要と思われるのは、8/26付けでDoricoのYouTubeチャンネルに公開された4本の動画「Switching from Finale to Dorico」です。
おそらくFinaleユーザーにとって一番の関心事は、これまで作成してきた.musxファイルをどのようにDoricoに移行できるかでしょう。具体的には、MusicXMLと呼ばれる楽譜作成ソフトウェア共通のファイル形式でファイルをやり取りすることになりますが、3番目の動画は、これをテーマに取り上げています。
Import MusicXML into Dorico | Switching from Finale to Dorico
この動画の要点は以下の通りです。
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(1)Doricoの環境設定は、基本的に弄らない(0:27)
Doricoの環境設定には「MusicXML Import」という項目があり、ここでは7種類のチェックボックスでインポートの条件を設定できるが、例えば破線のタイをそのままインポートしたいなど特に理由がない限り、これらのチェックはなるべく外した状態で使用した方が良い。
(2)楽譜レイアウトの変化(2:45)
インポート時に五線間の縦方向のスペーシングに問題が発生し、五線が縦方向に重なってしまう場合があるが、これはヘッダーとページ番号がFinaleではページ・マージンの外側に配置できるのに対し、Doricoでは内側に表示するという製品仕様の違いによるもので、インポート後にDoricoで「ライブラリー・メニュー>レイアウトオプション>ページ設定>ページ余白」にて余白を減らす必要がある。
(3)記号インポート先カテゴリの変化(4:07)
一部の記号は意図しないカテゴリにインポートされてしまう。例えばフォルテなどの発想記号はダイナミクスとしてインポートされるが、「cresc.」などの文字発想記号はテキストとしてインポートされるので、Dorico上でダイナミクスとして描き直しが必要。
(4)ファイル情報の移行不全(5:18)
Finaleのスコア・マネージャーに書いたテキスト情報は、Doricoにはそのままインポートされないので、若干の整理が必要。
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上記に挙げられた問題以外に、MusicXMLによる移行が上手く行かない場合は他にも多く想定されます。
例えば弊社がテストしている中では、連桁の最初にスラーを伴う装飾音符を配置した場合に、周りの要素の配置によってはスラーがずれてしまう問題が見つかりましたが、こういうものは修正作業以前に、問題箇所を全て特定するプルーフ・リーディングの作業も大変そうに思えます。
しかしながら、基本的にはMusicXMLを介した移行がFinaleファイルをDoricoで使い続ける唯一の方法のため、Doricoに搭載されたMusicXML機能の進化に期待しながら、この方法を研究するしかなさそうです。
Steinberg社の「Finale から Dorico Pro へのクロスグレード: よくあるご質問」では、以下のように説明されています。
全般的には高品位に転送されるが、個別のアイテムに関する特定のグラフィックな微調整などは転送されないことが多い。
Doricoは、MusicXML に含まれる情報のうちどれだけを維持し、どれだけを再計算するかを設定する詳細なオプションを備えており、全般的にはできるだけ多くのDoricoの自動機能を有効にさせることを推奨する。
Finaleと比較すると、DoricoのMusicXML対応はやや成熟度が劣るが、読み込み/書き出し両方の機能をより完全にするべく常に取り組んでいる。
楽譜作成ソフトウェアについては英語圏では代表的なサイトであるScoring Notesには、MakeMusic社の製品開発ディレクターであるJason Wick氏とのQ&Aが掲載されており、これがMakeMusic社のFinale開発現場からの公式見解と考えられます。
MakeMusic ends development and availability of Finale; partners with Steinberg to sell Dorico directly [updated] August 26, 2024 | by Philip Rothman
ここではWick氏は、「FinaleファイルをDoricoに取り込むためのファイルのバッチ変換に改善はあるか」との問いに対し、「現時点で提案できる最善の方法は、FinaleからMusicXMLフォルダをエクスポートしてDoricoにインポートすること」と回答しています。※
※Finaleには複数のファイルから一度にMusicXMLファイルをエクスポートする機能があります。
Wick氏によると、MusicXMLでのファイル移行時のレイアウト決定の多くはプログラム自体によって処理されるそうです。実際、上記のファイルをSibeliusで読み込んだところ、スラーの表記は元のFinaleファイルとは異なるものの、より自然な形となりました。こうした事情もあることから、Finaleの移行先製品は必ずしもDoricoが唯一無二のものではないという点も認識しておくべきかと思います。
少し余談ですが、DoricoはSMuFLフォント対応製品で、購入時にはFinale v27で新規搭載された記譜用フォントFinale Maestroが同梱されています。「ライブラリー・メニュー>音楽フォント」にてこれに切り替えることで、慣れ親しんだFinale風の外見に近づけることができます。(先のスラー問題で取り上げた譜例は、音楽フォントにFinale Maestroを使用しています。SMuFLフォントの詳細についてはこちらの記事をご覧ください。)
追記(2024/8/28):日本時間8/28(水)の朝、MakeMusic社より登録ユーザー宛に2つ重要なニュースが入りました。(詳細はFinale Sunset FAQをご覧ください。※)
一つ目は、ライセンス認証サービスの1年間制限の撤回および当面の存続です。これにより、少なくともMakeMusic社が直轄する英語版のFinaleユーザーは、2025年8月26日以降にパソコンを買い替えた場合も、新しいパソコンのOSがFinaleをサポートしている限り、そのOS上でFinaleをライセンス認証し、当面は使用し続けることができます。
二つ目はv26以前のユーザーを対象とした、Doricoへの移行に際しての救済策です。MakeMusic社では、同社の登録ユーザーで、Dorico Proクロスグレードを購入した、または購入予定の全員がFinale v27をダウンロードできるようにするためのソリューションに取り組んでいるとのことです。これが実現した場合、MusicXML 3.1以前しか持たないv26以前のユーザーも、改善されたMusicXML 4.0を搭載したv27を使って、自分のFinaleファイルをより再現性が高い形でDoricoにエクスポートできるようになります。
※【重要】これらは少なくとも現時点では、MakeMusic社が直轄する英語版Finaleユーザーに対する措置であることにご注意下さい。Finaleの販売やライセンス管理は国ごとに異なります。日本語版の対応については、日本の国内販売代理店からのアナウンスをお待ち下さい。
▼Finaleの開発/販売終了に関して(Finale国内販売代理店:株式会社ジェネレック・ジャパンFAQサイト)
追記(2024/10/1):日本のSteinbergオンラインストアでDoricoクロスグレード版を購入した場合のFinale v27英語版の入手方法がこれまで1ヶ月間に亘り不明でしたが、9月27日の夜、ようやく日本の国内販売代理店を通じて、これに関する公式情報が発信されました。以下のFAQ記事をご覧ください。
▼Doricoにクロスグレードしたい
Doricoクロスグレード版をMakeMusic社のオンラインストアで購入した場合はFinale v27英語版が即時提供となるようですが、日本のSteinbergストアで購入した場合は個別にMakeMusic社に問い合わせ、必要書類を提出してFinale v27英語版の提供を依頼する必要があります。
ただし、MakeMusicストアで購入した場合と異なり、日本のSteinbergストアで購入したDoricoについては日本語でのサポートを受けられますので、紆余曲折がありましたが、結果としては日本のSteinbergオンラインストアでDoricoクロスグレード版を購入するというのが、今回の件を受けて日本のFinaleユーザーが取るべき最善の対応になったと思います。
それと、Finale v27は英語版ではなく日本語版を入手したいという要望が多く聞かれますが、Finaleは元々英語版がオリジナルで、これは最も多くのテストが重ねられているため信頼性が高く、この機会にFinale英語版を入手できたことは、むしろ幸運と考えるべきかも知れません。
過去バージョンのFinaleでは、特定のダイアログボックスを日本語化しただけで文字化けなどの問題が生じたことも少なからずありました。v27ではこうした日本語版特有の問題はかなり改善されたものの、原理的に考えれば、改造品である日本語版が信頼性においてオリジナルの英語版を超えることはないと思います。
単にMusicXMLファイルをエクスポートするだけであれば、Finaleは英語版のままで十分です。その手順の詳細や注意点については別記事「Finale v27の入手と、MusicXMLを介したファイル移行の注意点」をご参照下さい。(この記事では、文字化け対策についても触れています。)
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最後に、ネット上で様々な情報が飛び交う今回のFinale終了騒動ですが、現実的な対応のためにはこれだけ知っておけば必要十分という情報源を掲載しておきます。
【MakeMusic側の公式発表】
▼The end of Finale(社長からのメッセージ)
▼Finale Sunset FAQ(具体的な対応)
【Steinberg側の公式発表】
▼After sunset: your path from Finale to Dorico by Daniel Spreadbury | Aug 26, 2024(Steinberg社のDoricoプロダクト・マーケティング・マネージャーからのメッセージ)
【Finale国内販売代理店、株式会社ジェネレック・ジャパンの公式発表】
▼国内販売代理店契約の即日終了に関して(会社としての見解)
▼Finaleの開発/販売終了に関して(具体的な対応)