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執筆者の写真tarokoike

【Finale】Finaleの生みの親、フィル・ファランド氏

この名前を検索しても日本語情報がほぼ皆無であることから、日本ではおそらく殆ど知られていないかも知れませんが、Finaleはフィル・ファランド(Phil Farrand, 1958-)氏という人物が生み出したソフトウェアです。



ファランド氏は、後にこのビデオを公開しているEvangel Universityに統合されることになるCentral Bible College(CBC)で作編曲を学んでいた頃、大量の楽譜を書かなければならない課題を科され、そこでキーボードで演奏した内容をコンピュータで楽譜化するというアイデアを最初に思い付いたそうです。


1958年生まれのファランド氏が大学生だったのは、1970年代末から1980年代初頭です。当時のパソコンはApple I(1976-1977)やApple II(1977-1979)といった黎明期のモデルが生まれたばかりで、現在見られるような楽譜作成ソフトウェアはなく、楽譜制作にはMusicWriterと呼ばれる専用のタイプライターを用いるのが一般的でした。


※MusicWriterはMusic Print Corporationにより開発・販売された製品で、1956年から1990年にかけて5,000ユニット以上が製造されました。詳細は以下の記事をご覧ください。

▼Life before Finale?(Finale開発元のMakeMusic社ブログ、英語)


1981年に大学を卒業後、彼は音楽出版社に就職しましたが、手作業で楽譜を作ることにはすぐに飽きてしまいました。


そうしたある日、彼は小さなフライヤーに楽譜を出力している会社を見つけました。彼はその会社に電話し、自分がキーボードで演奏した内容を貴社のソフトウェアを使って楽譜にしてくれるかと尋ねたところ、「そのようなソフトウェアはないが、もしあなたがそれを作ってくれるならばロイヤルティを支払う」と言われました。


ファランド氏はその時は笑って電話を切りましたが、その後すぐ、これはそれほど難しいことではないのではないか、と思い直したのです。


そして友人の助けを借りながら独学でプログラミングを習得し、2年後の1984年にはMIDIキーボードをフィーチャーした最初のNAMM Showにて、Apple II用の楽譜作成ソフトウェア「PolyWriter」をリリースしました。おそらく、このPolyWriterがFinaleの原型になったものと思われます。


その後、ファランド氏はCoda Music Technology社(現在のFinale開発元MakeMusic社)と協力してFinaleを開発し、1988年には最初のバージョンであるFinale 1.0をリリースしました。


※日本ではFinale 1.0のリリースは1989年とされる場合もあるようですが、MakeMusic社のブログではリリースは1988年とされています。


冒頭のビデオで話しているように、Finaleの名前は「これが自分にとって最後の楽譜作成ソフトウェア」という意味でつけたそうです。


”I called it Finale because I knew that was going to be my last piece of music notation software”


おそらくはPolyWriterを発展させて生み出したFinaleが、当時の彼にとっての楽譜作成ソフトウェアの完成形ということだったのかも知れません。


こちらはFinale v26.1ならぬ、Finale v2.6.1のスプラッシュ画面。作者(Author)に「Phil Farrand」の名前が読めます。



(余談ですが、このスプラッシュ画面の左側にある絵には、画面表示直後には指揮者が立っていますが、画面を開いたまま1〜2分放置すると、彼が指揮棒を置いて台から降りるというジョーク・プログラムが組まれていたそうで、おそらくこのスクリーンショットは指揮者が去った状態と思われます。ファランド氏について触れたおそらくは唯一のMakeMusic社公式ブログに、これに関する言及があります。)


1990年代に入ると、ファランド氏はFinaleをCoda Music Technology社に売却し、突如として楽譜作成ソフトウェア開発の業界から去ってしまいました。その後は文筆業に転身、現在はITコンサルタントとして生計を立てながら執筆活動を続けているようです。


彼が創り出したFinaleは、今は現役最古の楽譜作成ソフトウェアとして、Sibeliusと共に世界市場を二分する製品に成長しています。


これほどの製品を生み出した人物が健在にも関わらず今は業界にいないというのは何とも不思議な感じがしますが、だからこそFinaleの生い立ちは少なくとも日本においては殆ど誰にも語られないまま、今日に至っているのかも知れません。


▼フィル・ファランド氏のウェブサイト


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