Finaleの大きな強みの一つに、楽譜を構成するほとんど全ての要素について、その位置や大きさを変更できることがあります。
特に位置については、ドラッグで動かすこともできますが、厳密に定めたい場合は数値を使用します。そこで問題となるのが、数値の計測単位に何を使うかということです。
Finaleはアメリカ製のソフトウェアのため、初期設定では計測単位にインチが選ばれていますが、メートル法に慣れている日本人としてはインチではなく、ミリメートル(mm)やセンチメートル(cm)を用いたいところです。
Finaleでは何故か計測単位としてmmを選べませんが、実はmmも使用可能です。例えば5mmと入力したい場合は、「5mm」「5m」などと数字を計測単位あるいはその頭文字と共に入力すると、計測単位に何が選ばれていても強制的にmm単位で数値を入力できます。
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ところで、Finaleテクニカル・サポートでは、計測単位にはインチでもセンチメートルでもなく、Finale独自の計測単位であるEVPU(ENIGMA Virtual Page Units)の使用を推奨しています。
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(弊社主催のフィナーレ集中講座も同様です。)
その最大の理由は、EVPUは小数点を使わないためです。Finaleの仕様上、計測単位にインチやセンチメートルを選んでいる場合は数値を入力してもその通りに表示されず、小数点を伴った近似値で表示されるため、数値の入力や管理が煩雑になりますが、EVPUではそのような不便がなく、ほとんどの場合は3桁以内の数値で設定できます。
具体例を挙げましょう。例えば、コード・サフィックス編集ダイアログボックスにて大きめのコード・サフィックスを自作するとします。
コード・サフィックスで数字や記号のフォントを大きくすると、それぞれの文字間隔も再調整が必要となります。一般的なワープロソフトの場合は、これは
「7(b9)」「7(b9)」「7(b9)」
といった形で自動的に行われますが、Finaleの場合はこの間隔調整を一つひとつ全て手動で行う必要があります。
つまり、7(b9)というコード・サフィックスを大きめに自作する場合、二つの括弧と「b」「9」は、大きくなった「7」と重ならないようにそれぞれ右にずらす必要がありますが、それらの縦横位置は個別に手動で再設定しなければなりません。(個別に手動で設定できるというのはFinaleの凄さとも言えますが。)
二つの括弧は縦の座標を揃えたいので、縦位置を仮に5mmと決めたとします。その際、計測単位をcmとして「0.5」と入力しても、あるいはmmとして「5m」と入力しても、入力結果はいずれも「0.52917」という近似値に強制換算されてしまいます。
EVPUの場合はこういうことは起こらず、縦位置を仮に60と決めた場合、入力した値がそのまま表示されます。なので、次に7(#9)や7(b13)といった似たようなコード・サフィックスを同じサイズで自作する場合、括弧の位置は「縦0.52917」の代わりに「縦60」とメモっておけば良いわけです。
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以上をまとめると、普段は計測単位をEVPUに設定しておいて、必要に応じて「XXXmm」「XXcm」などと入力するのが良いのではと思います。
例えば、ページの左マージンに2cm欲しいと思ったら、ページマージン編集ダイアログボックスの左マージンに「2c」と入力します。適用ボタンをクリックすると、これは227EVPUに自動換算され、印刷結果にもそれが反映されます。
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EVPUの唯一の難点は、数値を絶対的な長さとしてイメージしにくいことかと思いますが、浄書ならともかく、普通に楽譜を書いている時は各要素の相対的なバランスが問題なので、特に絶対的な長さを気にする必要はないでしょう。となると、EVPUを使わない理由はありません。
絶対的な長さについては厳密には
「1EVPU = 0.08819mm ≒ 0.09mm」「1mm=11EVPU」「1cm = 113EVPU」
なので、大雑把に
「1EVPUは、1mmのさらに1/10」
くらいに覚えておけば十分かと思います。
なお、Finaleには、他にも楽譜浄書専用の単位であるスペース(五線1間分が1スペースに相当)などの計測単位も使用可能です。これらの詳細はユーザーマニュアルをご覧ください。
▼計測単位の違い