FinaleファイルをMusicXMLを介してDoricoなどの他ソフトウェアに移行させる際には、様々な問題が発生する可能性があります。弊社がこれまで調べた限りでは、例えば前回記事で紹介したDorico開発元のSteinbergが公開する解説動画で指摘されている3点も含め、以下が考えられます。
楽譜レイアウトの変化:組段間における縦方向のスペーシングに問題が生じることがある※
記号の移行不全:インポートされないものも少なくない:発想記号、アーティキュレーション、変形図形
楽譜スタイルの移行不全:インポートされないものも少なくない:一本線、五線を隠す、など
記譜用フォントの変化:KousakuやChaconneはグローバル設定の記譜用フォントとしては使用できない
プレイバック情報の移行不全:繰り返し記号の多くは再設定が必要。特にドラムセットは音色の再設定が必要な場合がある。
コード・サフィックスの移行不全:テンションなど各要素の位置情報が移行されない
ギタータブ譜の表現変化:ギタータブ譜は、標準機能では日本式ベンドなどが表現できない
記号インポート先カテゴリの変化:一部の記号は意図しないカテゴリにインポートされてしまう※
記譜表現の変化:スラーの位置がずれるなど、記号が意図しない形で再現されることがある
ファイル情報の移行不全:スコア・マネージャーのファイル情報は、そのまま移行されない※
※:Steinberg解説動画で指摘されている問題
これから何本かの記事に分けて、これらの中から特に重要と思われる件について、問題の詳細と対策をまとめてみたいと思います。
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【2024/11/8更新】この記事には関連記事があります。宜しければ以下をご覧下さい。
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1.楽譜レイアウトの変化
・通常スタイルの楽譜の場合
レイアウトの件は、処理が少々面倒である点で問題が大きいと思えます。これはSteinbergの解説動画が指摘する通り、ヘッダーとページ番号がFinaleではページ・マージン線の外側に配置できるのに対し、Doricoでは内側に表示するという製品仕様の違いによるものです。
Finaleのページ・マージンとページ番号との位置関係は、通常は以下のようになります。赤い矢印の指すポイントがページ・マージンの四隅で、赤い四角で囲まれたページ番号は楽譜エリアの外側、つまりページ・マージン上に配置されていることが分かります。
こちらが同じファイルをMusicXMLでDoricoにインポートした状態で、この場合はページ番号は2ページ目の左上、ページ・マージンの内側に配置されていることが分かります。
これを元のFinaleで開いた際と同じレイアウトに戻したい場合、まずはインポート後にDoricoで上下方向に広く取られたページ・マージンを半分程度に減らして、中央の楽譜エリアをより広く確保します。
そして、楽譜エリアの最下段にページ番号のフレームを新設し、さらに必要に応じて最上段に曲名などを表示させるヘッダーのフレームを新設することになります。
下の図では、この処理を施しています。実質的な楽譜エリアの下端は青い矢印で示したポイントで、この事例では楽譜エリアの下にページ番号を挿入するフレームを配置し、さらに両者の距離を調整するスペーサーとして、空白のフレームを挟み込んでいます。
また、Doricoでは初期状態ではタイトルの下にはサブタイトルではなくフロー・タイトルが表示される仕様のため、これも必要に応じてページテンプレートにてFinale仕様のフレームを自分で組み直す必要があります。これについてはSteinberg解説動画にある通りです。
なお、Sibeliusの場合はFinaleと同様、楽譜エリアを超えてページ・マージンの中にページ番号を配置するのが容易です。今回はインポート直後にページ番号がやや上にずれて配置されましたが、この場合はページ・マージンは編集せずにページ番号だけを移動させるのみで修正が完了できるかも知れません。
・楽譜内にテキストを多用している場合
多くのファイルは上記の処理でDorico仕様のレイアウトに修正できると思われますが、面倒なのはテキスト系の発想記号を多用した楽譜で、この場合はこれらに対して衝突回避の自動機能が働くせいか、レイアウトは大きく崩れることがあります。
こちらが元のFinaleファイルです。
これをMusicXMLとしてDoricoにインポートすると、このようになりました。
この場合は、レイアウトオプション・ダイアログボックスでいくつかのパラメータを操作することで、組段のレイアウトを修復できます。
「レイアウトオプション>ページ設定>ページ余白」で、上下と左右をそれぞれ7mm、15mmに変更。
「レイアウトオプション>垂直方向のスペーシング>最小値」の二つのパラメータを「-999」に変更。もしくは「隣り合う譜表と組段の衝突を自動的に解消する」のチェックを外す。
「レイアウトオプション>垂直方向のスペーシング>両端揃え」の二つのパラメータを「100」に変更。
「レイアウトオプション>譜表と組段>配置設定」で、組段あたり小節数を4小節、フレームあたりの組段数を6段として、「フレームの高さに合わせて組段の数を増減する」のチェックを外す。
(上記は「譜表に付くテキスト」が多いこのファイルの場合の処理で、通常は自動処理はなるべくONのままの方が良いと思います。)
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なお、このファイルは発想記号、アーティキュレーション、変形図形、そしてコード・サフィックスの一部についてインポートのテストを行なった際に用いたファイルですが、このスクリーンショットを見ると、これらについても元のFinaleファイル通りにインポートされない記号が数多くあることが分かります。
これについてはまた別の重要なテーマとなるので、次の記事で詳細に触れたいと思います。