2024年10月8日に、Doricoの無料アップデートであるv5.1.60が公開されました。このアップデートには、FinaleからDoricoに乗り換えたユーザーにとって重要な二つの機能が追加されています。
一つはMusicXMLインポート時のレイアウト崩れの修正作業を助ける機能、もう一つはFinaleの高速ステップ入力(MIDIキーボード不使用)をDorico上で実現する機能です。
後者につきましては別記事「Dorico上でFinaleの高速ステップ入力を実現する方法」に詳述しましたが、ここでは後者の、MusicXMLインポート時のレイアウト崩れの修正作業を助ける機能について、その現状と課題を解説します。
【目次】
1. 現状の挙動
3. 次のアップデートへの期待
ーーー
1. 現状の挙動
v5.1.60では、「環境設定>MusicXML Import」に「システムおよびフレームの改行をインポート」という項目が追加されました。
この画面にある「システムおよびフレームの改行が指定されている場合、元のMusicXMLファイルと同じ段組を維持します」という説明は、Dorico用語で書かれているため少々分かりにくいですが、Finaleユーザーが理解し易い表現に書き直すと、
Finaleの「ユーティリティ>小節のはめ込み」や「ページ・レイアウト>組段の均等配置」などでレイアウトが指定されている場合、元のMusicXMLファイルと同じ段組を維持します。
ということなのかと思います。
v5.1.60の初期設定ではこの機能がONになっており、これによりMusicXMLのインポート時のレイアウトに関する挙動は、前バージョンのv5.1.51から変化しました。
実際の事例で、この機能の適用時の挙動を見てみましょう。
【Finaleのオリジナル・レイアウト】
【Dorico v5.1.51以前でインポートした場合】
【Dorico v5.1.60でインポートした場合】
【参考:Sibeliusで読み込んだ状態】
まだSibeliusには追いついていませんし、むしろこの事例のように組段の重複が最初から顕著に現れる場合もあることを考えると、この機能が初期設定でONになっていることについては賛否両論があるかも知れません。
しかし現象を細かく観察すると、なぜ現状はこのような挙動なのかが理解できそうです。
(目次に戻る)
2. 期待通りにインポートされない理由
今回の事例で組段の重複が発生している理由は、おそらく主に二つあります。
一つ目の理由は、以前の記事で述べたようにFinaleとDoricoではページ・マージンの扱い方が異なることで、Doricoではページ番号やタイトルを全てページ・マージンの内側に配置する仕様のため、その分だけページ・マージンをFinaleよりも狭くしておかないと楽曲フレーム内に十分なスペースを確保することができず、重複が発生し易くなります。
二つ目の理由は、DoricoではMusicXMLファイルのインポート時にFinaleでは非表示にしていた要素を再表示するというのが現状の仕様であることです。※
(※今回のアップデートに含まれた書類「Dorico_5.1.60_Version_History.pdf」にも、「Doricoには特定の組段で譜表が非表示になっているかどうかに関する情報をインポートする機能がまだないため、インポート後のレイアウトが元のファイルと完全に一致しない可能性がある」と書かれています。)
今回用いた楽譜の事例で言うと、イントロの16小節で非表示にしていたヴォーカル・パートが再表示されているため、1ページ目ではそれ以降のページに比べて、組段の重複がより大きく現れています。
また、Finaleではパート譜で表示させフル・スコアでは最上段以外で非表示にしていたコード・シンボルが、Doricoでは全ての楽器で再表示されており、これもフル・スコア全体において組段重複の一因になっています。
これら二つの問題は、オリジナルのFinaleファイルと並べて比較してみると、より明瞭に把握できます。以下は2ページ目の比較で、フル・スコアは大体このような形で全体に亘り組段の重複が発生しています。
(目次に戻る)
3. 次のアップデートへの期待
しかし、このようにレイアウト崩れの理由が分かればその修正方針が分かりますし、実際の作業フローでは、Finaleで言うところの「小節のはめ込み」と「組段の均等配置」を再度行わなくて済むようになった点においては僅かながらとは言え作業の省力化となっていることは確かなので、今回のアップデートは積極的に評価したいと思います。
このアップデートには、おそらく続きがあります。Steinberg社が言う「特定の組段で譜表が非表示になっているかどうかに関する情報をインポートする機能」が実装されれば、v5.1.60でなされた改善との組み合わせで、MusicXMLファイルのインポート時におけるレイアウト崩れの問題は大幅に解消されると思われ、これについては次のアップデートに期待したいと思います。
ーーー
ここでDorico 5の無料アップデート公開の履歴を改めて見ると、発売後から1年4ヶ月の間で11回のアップデートが行われたことが分かります。
Dorico 5.0 (2023年5月23日)
Dorico 5.0.10(2023年5月30日)
Dorico 5.0.20(2023年7月3日)
Dorico 5.1 (2023年12月13日)
Dorico 5.1.10(2024年1月14日)
Dorico 5.1.20(2024年2月14日)
Dorico 5.1.30(2024年3月28日)
Dorico 5.1.32(2024年4月18日)
Dorico 5.1.40(2024年5月23日)
Dorico 5.1.50(2024年7月26日)
Dorico 5.1.51(2024年8月6日)
Dorico 5.1.60(2024年10月8日)
Finaleの場合はv26(2018年発売)以降の無料アップデート公開が概ね1年間に1、2回程度であったことを考えると、このアップデートの公開頻度の差は、MakeMusic社とSteinberg社の開発力の違いなのかなと思います。
MusicXMLの扱いに限って言えば、今のところDoricoはSibeliusの後塵を拝する状況ですが、Doricoについては現状の性能だけでなく、その開発力による今後の早期の性能向上にも期待したいところです。