Doricoにはリデュースとエクスプロードという、複数の譜表を一つにまとめたり、逆に一つにまとめられた譜表を複数の譜表に分割する機能があります。また、譜表をまとめるという点においてはリデュースと似た、コンデンシングという複数のプレーヤーの楽譜を通常より少ない譜表に自動的に切り替え表示する機能もあります。
リデュースとエクスプロードはFinaleにも似たような機能がありましたが、コンデンシングはDoricoに独自の便利機能です。今回の記事では、Doricoにおけるこれらの「楽譜凝縮機能」について、Finaleと比較しつつ動作を試してみました。
【目次】
1.リデュースとエクスプロード
2.コンデンシング
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1.リデュースとエクスプロード
(1)Finaleにおける「和音の分散/集約」と「大譜表に集約」
Finaleには、譜表をまとめる楽譜凝縮機能が二つ搭載されていました。一つは「ユーティリティ・メニュー>和音の分散/和音に集約」、もう一つは「プラグイン・メニュー>作曲・編曲関連>大譜表に集約」です。
これらは「和音に集約」において集約後の最小音価を決めるためのクォンタイズ設定が可能なこと、「大譜表に集約」において低音部・高音部譜表の分割ポイントをMIDIノート番号で設定可能なこと以外には特に専用のパラメータは無く、対象範囲を選択してOKボタンをクリックするだけというシンプルな機能でした。
適用結果は両者でやや異なりましたが、いずれも声部が考慮されず全ての内容が同じレイヤーに集約されるため、元の音符の音価が変わってしまうことが常であった点は同じで、適用後に必要に応じて声部を考慮した形に手動で編集する必要がありました。
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(2)Doricoにおける「リデュース」と「エクスプロード」
Finaleの「和音の分散/集約」や「大譜表に集約」と異なり、Doricoでは「リデュース」という機能を用いることで、複数の譜表に書かれたフレーズを各声部の元の状態を保ったまま、より少ない譜表に集約することができます。
以下の譜例のような場合は、ヴァイオリンからチェロまでの四つの譜表の全てを強引に一つの譜表に押し込むことも可能ですが、大譜表を使って高音部の低音部の二つに分けるのが良いでしょう。
四つのフレーズはそれぞれの声部に分かれているので、Finaleと異なり、逆の操作「エクスプロード」を用いることで元の状態に戻すこともできます。
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2.コンデンシング
これはFinaleには無かった、Dorico独自の機能です。例えばこのようなオーケストラ・スコアに、コンデンシングを適用してみます。
操作としては、編集メニューから「コンデンシング」を選ぶだけです。
コンデンシングの適用後は譜表の数が減り、シンプルな譜面に変更されます。処理は全て自動で行われ、処理時間はファイルの状態により異なりますが、11ページからなるこの曲の場合は1秒くらいです。
木管楽器のパートを拡大してみましょう。これがオリジナルの状態で、多くのプレーヤーはユニゾンで演奏していることが分かります。
コンデンシングの適用後は、ユニゾンで演奏していたオーボエ 1&2、クラリネット 1&2、バスーン 1&2の譜表がそれぞれ統合され、譜表は8本から5本に減ります。
もちろん、このように統合された場合も、パートレイアウト(=パート譜)は個別に作成されます。
もしFinaleでこれを実現しようと思ったら、楽曲の完成後にファイルを別名で保存し、別ファイル上でこれらの編集を全て手動で行う必要がありました。
それを考えると、別ファイルにすることなく元のファイルに適用し、また解除して元に戻すことが全て自動でできるこの機能は、元Finaleユーザーにとっては驚異的かと思います。
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3.リデュースとコンデンシングの違いと、使い分け
リデュースとコンデンシングは、複数の譜表をより少ない譜表にまとめるという点においては似た機能と言えますが、その意味合いは異なり、リデュースは作曲・アレンジが目的、コンデンシングは指揮者用のコンパクトなフルスコアを手軽に作成するのが目的の機能と言えます。
例えば、本記事の冒頭でリデュースの説明で使用した譜例にコンデンシングを適用すると、初期設定ではヴァイオリンとヴィオラが入れ替わったり、不適切な音部記号が用いられるといったことが起こります。
この譜例に即して言えば、これらはDoricoのコンデンシング機能が曲の後半で生じているパート間のピッチ跨ぎを自動回避していることが原因で、記譜オプションやレイアウトオプションにあるコンデンシング関連の設定を変更することで、ある程度の制御は可能です。
そもそもコンデンシングは適用後に該当範囲がロックされて要素の選択ができない仕様でもありますので、これはその適用後に何かの編集を加えるといった目的には不向きです。
しかし、こうした性質を理解した上であれば、例えばヴォイシングを確認するために元の状態と集約した状態を瞬時に、しかも頻繁に切り替えたいといった場合には、コンデンシングを使うのも便利かも知れません。
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