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Dorico + NPPEの可能性:Doricoのキーエディターの柔軟性と、NPPEの豊かな演奏表現の組み合わせ

執筆者の写真: tarokoiketarokoike

前回の記事では、楽譜作成ソフトウェアにてオーケストラ曲を最高のプレイバックで聴くためのツールであるNotePerformer Playback Engine(NPPE)をご紹介しました。


今回の記事では、この時に使用した楽譜作成ソフトウェアDoricoの方に注目し、その柔軟なプレイバック編集機能を使うことで、NPPEのような高品質な外部音源をいかにより有効活用できるかということを考えてみたいと思います。



Doricoのプレイバック編集機能は、DAW並みにフレキシブル


まず、こちらの動画をご覧下さい。Doricoのフローという機能を用いて一つのファイル上に同じ楽曲を並べて、それぞれを同じBBC Symphony Orchestra Core + NPPEで演奏させたものですが、左側の楽譜は普通に、右側の楽譜は途中にテンポ変更を設定しています。



Doricoではこの動画にあるように、キーエディターを使用して、DAWと全く同じ感覚で、より直感的かつ楽にプレイバック編集が可能です。


これはテンポ変化をキーエディター編集で実現した事例ですが、Doricoのキーエディターではテンポだけでなくベロシティも個々の音ごとに編集できますし、音を鳴らすタイミング、そしてそれを切るタイミングも、DAWと同様にピアノロール上でリボンをドラッグすることで、個々の音ごとに編集することができます。


さらには、ピッチベンドなど様々なオートメーションを書き込むことも可能、様々なエフェクターを挿入することも可能で、オーディオトラックが扱えないことを除けば、Doricoのプレイバック機能は基本部分においてはDAWとほぼ同等と考えて良いかと思います。

Doricoのプレイバック編集機能は、DAW並みにフレキシブル
Doricoのプレイバック編集機能は、DAW並みにフレキシブル

成果品として、モックアップと楽譜の両方が必要なプロジェクトでは?


レコーディングやライヴなど生演奏を前提とした楽曲を制作する場合、モックアップ(クライアントや演奏者などに聴かせる参考音源)と楽譜の両方を用意することもあるかと思います。


簡単な譜面で良い場合はDAWのスコアリング機能を使って楽譜を仕上げることもできますが、パート譜をしっかり作り込みたいといった場合、楽譜は楽譜作成ソフトウェアで準備したいことが多いでしょう。


その際、DAWと楽譜作成ソフトウェアの間でMIDIファイルをやりとりすることになりますが、これがなかなか簡単に進まないこともあります。


DAWで作曲した場合は、DAWからエクスポートしたMIDIファイルを楽譜作成ソフトウェアにインポートして楽譜を作成しますが、この際はDAW側でトラックを整理しておかないと楽譜上で楽器が混ざったり分離してしまったりといった面倒が起こりますし、他にも隠れていたMIDI情報が楽譜作成ソフトウェア上で意図しない形で反映されてしまったりと、いろいろ起こり得る不都合を基本的に手作業で修正する必要があります。


逆に楽譜作成ソフトウェアで作曲した場合は、エクスポートしたMIDIファイルをDAWに読み込んだ際、DAW上で演奏に表情を付け直さなければならなかったり、またこちらでも楽譜作成ソフトウェア上に固有のMIDI情報がDAW上で意図しない形で反映されてしまったりといったリスクが考えられます。



Doricoでモックアップの両方の制作を完結できれば?


DAW並みのプレイバック編集機能を持つDoricoでハイエンドなサードパーティ製の外部音源を鳴らした場合、もしかしたらDoricoからエクスポートしたオーディオ・ファイルが、DAWへの移行の必要なしに、そのままモックアップとして使える場合もあるかも知れません。


楽譜はもちろん、モックアップの制作までをDoricoだけで完結できる簡単フローが実現できれば、DAWとのファイル交換の面倒やリスクを心配せずに、より短時間で楽譜およびモックアップの制作を済ませ、本来の目的であるレコーディングやライヴの準備により多くの時間を使えるようになります。特にオーケストラ曲の場合、それはNPPEを使えば十分に実現可能に思えます。


NPPEは現時点ではオーケストラ系の音源に特化したもので、単体では他ジャンルの演奏には不向きかも知れません。


しかし、例えばストリングスやホーン・アレンジを伴うポップス曲なども、オーケストラ系のセクションはDorico + NPPEで書き出したオーディオ・ファイルをDAWにインポートして、DAW上で制作したリズムトラック等とミックスすることも、原理的には可能に思えます。


最終成果品はあくまで生演奏で、モックアップの仕上がりは最低限で良いという場合は、このワークフローを使えば全てをDAW上でMIDI編集する手間が省けますし、その「最低限」の仕上がりも、単に楽譜作成ソフトウェアの付属音源でエクスポートしたものよりはずっと良いものになると思います。


ーーー


例えばFinaleでも、MIDIツールを使って楽譜上にMIDI情報を書き込むか、あるいはプレイバックに反映可能な発想記号やアーティキュレーションを要所に配置することで、プレイバックのブラッシュアップはある程度可能でした。


しかしこれらはいずれも基本的にグラフィカルな操作ではなく、数値を入力して制御する必要があるため、設定自体が面倒でしたし、自分がどのような設定を行なったのかが後で視覚的に把握できないという不便さがありました。


こうした性質を持つ製品であったFinaleのテクニカル・サポートに携わって来た経験がある意味ネガティブに働いたようで、私は長いこと「楽譜作成ソフトウェアでプレイバックに拘るよりも、MIDIファイルをエクスポートしてDAWで音源を仕上げる方が効率的」と考えて来ました。


しかし最近はDoricoやNPPEなど外部音源をより深く学ぶにつれて、この考えが変わりつつあります。


これは生演奏を最終成果品とする音楽制作の今後を考える上で興味深いテーマに思えるので、引き続き研究を深めていきたいと思っています。

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