まずはこちらをご覧下さい。エレクトリック・ギターの譜例ですが、ギタリストが演奏中に足元のエフェクターを踏み分けるように、プレイバック中にクリーン・トーン、オーヴァードライヴ、ディストーションと、3種類の音色に切り替わるようにしています。
このファイルは以下のような仕組みになっています。
表示用として、全ての音符を書いた最上段の五線「Electric Guitar」を作成し、これはプレイバック時にミュートしておく。(音色は何でもOK)
プレイバック専用として、3種類の音色それぞれに対応した五線「Clean Tone」「Overdrive」「Distortion」を作成し、これらは楽譜上では非表示にしておく。
ついでですが、本来Finaleではプレイバックに再現されないギターのゴースト・ノートを表現するために、6小節目にはこれに近い音色であるカホンの音を1つだけ入れています。
作成した五線を全て表示させると、このような形になります。つまり、ステージに立つギタリストはエアで弾いていて、舞台裏で3人のサポート・ギタリストが各パートを交互に弾いている、といった形の楽譜に仕上げることになります。
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この「プレイバック専用の五線」という考え方は楽譜作成ソフトウェアを操るにあたっては極めて有効なもので、今回の音色切り替えに限らず、「楽譜上の表現は簡単にしたいけどプレイバックは細かく制御したい」といった場合には、この処理がおそらくベストです。
他の事例を挙げると、例えばFinaleでは仕様上、8分音符のシャッフルと16分音符のシャッフルをプレイバック時に共存させることが出来ませんが、この両方でシャッフルできるようなプレイバック専用の五線を用意することで、その問題を解決できます。
やや特殊な事例ですが、以前の記事で、Doricoでは日本式チョーキングを表現するためにタブ譜の数字が変わらないダミーのトラックを別途作成する必要があると述べました。このダミーのトラックというのも、発想としては上記と同じです。
【All】楽譜作成ソフトウェアがギター・スコアの記譜慣例に及ぼす影響
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特にFinaleの場合、ある一つの結果を生み出すために複数の方法があることが多いですが、そこからベストな方法を選ぶにあたって最重要な基準は、それが単純であることだと思います。
その理由は、単純であればプログラム処理上の問題も起こりにくいし、月日を経て再びそのファイルを使う際に、その作成時に自分がどのような処理をしたかを思い出し易いためです。