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執筆者の写真tarokoike

【All】楽譜作成ソフトウェアにおけるギターのゴーストノート、ブラッシング、グリッサンド、ピック・スクラッチの表現比較

この記事では、現在販売されている各種の楽譜作成ソフトウェアの中から特にロック・ギター・スコアの制作に適した製品を数種類取り上げ、ゴーストノート、ブリッジ・ミュート、ブラッシング、グリッサンド(グリス)、ピック・スクラッチといったノイズ系の特殊奏法の表現方法を比較してみます。


事例としては、ギター・ベンド(チョーキング)を扱った以前の記事と同様、日本式の符尾付きタブ譜が書ける製品を取り上げました。ハイエンド製品に位置付けられるFinale、Sibelius、Doricoからは、日本国内の楽譜出版業界にて標準ツールとなっているFinaleを代表事例に取り上げます。


仕様比較(Finale、Guitar Pro、Dorico SE / Elements、MuseScore)


(1)Finale 27

(※タブ譜は120%に拡大表示しています。)


・ゴーストノート(1小節目)

Finaleでは、符頭に様々な図形を個別に選択可能で、ゴーストノートには譜例1小節目のようにX符頭を用いるのが一般的です。


・ブリッジ・ミュートとブラッシング(2小節目)

譜例2小節目の1〜2拍目では、ブリッジ・ミュート用に「M」のテキストを発想記号として配置していますが、変形図形にある「Palm Mute」というプリセットを使用することもできます。


3〜4拍目にあるようなコードのブラッシングについては、基本的にはコードを構成する音符の符頭を個別にゴーストノートと同じくX符頭に変えることで表現します。


日本国内の出版譜にみられるようなブラッシングの表現を使いたい場合は、五線スペース2つ分の縦長なX符頭を使用することもできます。ただし、この場合は元の音符を少々弄ることになるので、プレイバックでは元のコードは鳴りません。


グリッサンド(3小節目)

グリッサンドの図形記号は、Finaleの場合は変形図形ツールのスラーを流用します。これは編集の自由度が極めて高く、S字を始めとした様々な曲線を描くことができます。


ピック・スクラッチ(4小節目)

ピック・スクラッチについては、Finaleに標準搭載のグリッサンドの図形記号を使います。譜例では「Pick Scratch」の表記は変形図形ツール内の記号を用いていますが、これはギター用の「ギター&ベース用統合ライブラリ」を読み込むことで使用可能となります。(同ライブラリの詳細はこちらの記事をご覧下さい。)


なお、このライブラリは、Finaleの現行バージョンであるv27開発にあたり、日本における代表的なロック・ギター誌の一つと言える『ヤング・ギター』で用いられる記譜法を参考に日本独自に作成したものです。このライブラリのように発想記号や変形図形を自作してライブラリ化できるのは、Finaleの大きな特長と言えます。



(2)Guitar Pro 8


Guitar Proの場合は、奏法に従った符頭に変更すると、プレイバックでもその音色が適用されます。プリセットの符頭の中では、括弧付き音符として表現される「ゴーストノート」よりもX型符頭の「デッドノート」を使った方が、それらしい音色になります。


ブリッジ・ミュートは、英語での慣例表記である「Palm Mute」の図形記号を適用します。グリッサンド、ピック・スクラッチも専用の図形記号が用意されています。


ブラッシングには専用の図形記号がなく、上の譜例のようにデッドノートで表現するのが良さそうです。


日本国内の出版譜にみられるブラッシングの表現を使いたい場合は、ベース用の「ゴーストノートでスラップ」を使うこともできますが、ギター用としては図形記号が少し大き過ぎるかも知れません。



(3)Dorico SE / Elements


Doricoシリーズの場合も、ギターに特化したGuitar Proほどの臨場感はありませんが、奏法に従った符頭に変更すると、プレイバックでもある程度、その音色が適用されます。


符頭の種類については、無料版であるDorico SEでもFinale並の豊富な選択肢があります。ゴーストノートやブラッシングの表現に使えるX符頭も数種類あり、1小節目の2拍目では「装飾文字のX符頭」を選んでみました。


タブ譜側については五線側の符頭と同じにならず、初期設定では数字のままですが、これはプロパティ画面で「デッドノート」を選ぶことでX表記に変更することができます。


グリッサンドやピック・スクラッチについては、同じくプロパティ画面にある「ジャズアーティキュレーション」を使用するのが良いでしょう。これも音符の前につける場合と後ろにつける場合それぞれで、十分な種類の図形記号が用意されています。3〜4小節目には、ロック・ギターで使えそうな図形記号を数種類ピックアップしてみました。


Dorico SEでも、日本国内の出版譜にみられるブラッシングの表現は可能です。


Dorico SEはテキストを自由に配置する機能がなく、タブ譜側に奏法記号が書けませんが、浄書モードを搭載した有料版のDorico ElementsやDorico Proでは、これが可能です。



(4)MuseScore


無料の楽譜作成ソフトウェアMuseScoreでは、ロック・ギターの特殊奏法に関する記号はテキスト、図形ともに豊富に搭載されており、Finaleに準じた表現が可能です。


なお、ピック・スクラッチで使用している二重のX符頭などはSMuFL記号で、これは同じくSMuFL対応ソフトウェアであるDoricoシリーズやFinaleにも同じものが搭載されています。


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何を使うべきか


やはりギター・スコアにはGuitar Proがベスト・チョイスであるという感想は、ベンド(チョーキング)を扱った以前の記事と同じでした。ただし、Guitar ProはSMuFL対応ではないこともあり、図形記号についてはやや物足りなさを感じます。


その点では、無料ながらSMuFL記号にも対応したMuseScoreは相変わらず優れていますし、同じくSMuFL対応である上に、ロック・ギターの特殊奏法に使える様々な図形記号が整理されて使い易く、さらにプレイバックでも多少ながらそれが再現されるDorico SEにも好印象を持ちました。

【お知らせ】

Finaleからの乗り換えを支援するDorico集中講座をZoomオンラインにて開催中。2期目となる2024年11月開講コースの開催が決定しました。詳細はこちらのページをご覧下さい。

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