前回記事で、Windows環境では、FinaleやDoricoはオーディオ・ドライバとの競合に起因するトラブルがMac版と比較して発生しやすいという話をしました。
これはより正確に言うと、オーディオ・ドライバにASIOを選択している際に、これとの競合が発生する可能性があるということです。
Doricoの場合は特定のASIOドライバの使用で音が出なくなる問題が確認されましたが、Finaleやその廉価版であるPrintMusicについては、以下のような症状が見られる場合、このケースが疑われます。(※もちろん、他の原因も考えられます。)
起動時に「オーディオエンジン・エラー」「エラーコード:7」と表示される。
起動に概ね30〜40秒以上の時間が掛かる。
起動しない。
プレイバック・ボタンを押しても、プレイバックが開始されない。(カーソルが止まったまま再生開始しない。)
上記「1.」のエラーメッセージはこのようなもので、おそらく何度も目にしたという方は多いかと思います。
一般に楽譜作成ソフトウェアでは、オーディオ・ドライバを複数の選択肢から選ぶことができます。
DoricoはASIOドライバしか使用できないようですが、FinaleではASIOの他にWASAPI、Direct Sound (DS)が、Sibeliusではさらにこれらに加えてMultimedia Extensions (MME)も使用できます。
そもそも、これらのドライバの違いは何でしょうか。SibeliusのFAQ記事であるAvid Knowledge Baseの「他のデバイスで音を再生する方法」(最終更新2022年7月21日)という記事には、以下のような記載があります。
ーーー以下、引用ーーー
SibeliusをWindowsで使用している場合は、デバイス名の後に以下の文字が表示されている場合があります。以下の優先順位で使用してください:
(ASIO): Audio Stream Input Output: こちらは最適なデバイスです。もっとも遅延が少ない状態で再生ができます。
(WASAPI): Windows Audio Session API: こちらも遅延が少ない状態で再生ができますが、コンピューターのリソースを多く使用します。
(DS): Direct Sound: Windows Direct Soundを使用する、もっとも一般的で良く使用されるドライバです。
(MME): Multimedia Extensions: Windowsが使用できるドライバです。良いパフォーマンスではないのでお勧めしません。
リスト内にASIOがある場合は、そちらを使用してください。ASIOが無い場合は、WASAPIまたはDSを使用してください。それらが無い場合にはMMEを選んでください。
ーーー以上、引用ーーー
この記事には各ドライバの特徴が簡潔にまとまっていると思いますが、弊社で得ている情報なども補足し、もう少し詳しくまとめてみます。
(1)ASIO
ASIO(Audio Stream Input Output)はSteinberg社が提供する規格で、質の高いオーディオ機能を提供します。一部の外部オーディオ・デバイスとも連携でき、多くの外部USBオーディオ・デバイス、特にハイエンド・デバイスには独自のカスタムASIOドライバーがあります。
しかし、オーディオ製品を扱う各社がASIOの規格に準拠した様々なドライバを開発・提供しているため、時としてソフトウェアとの相性の問題が発生する可能性があることに注意する必要があります。
(2)WASAPI
WASAPI(Windows Audio Session API)はMicrosoft社が提供する規格ですが、既にレガシー規格とみなされる場合もあるようです。
2016年に登場した新たな楽譜作成ソフトウェアであるDoricoはWASAPIに対応しておらず、Finaleについても、この記事を執筆した2024年1月時点では開発元により非推奨とされています。
(3)DirectSound
DirectSoundは、例えばRealTekなどの内蔵サウンド・カードのみを使用するような用途の一般向けコンピュータで使用されています。
DirectSoundは性能的にASIOやWASAPIに劣るため、特に音楽制作には推奨されていないようですが、ASIOよりも汎用性が高く安定動作するため、Finaleテクニカル・サポートではASIOに問題があった場合はDirect Soundの使用に切り替えることを推奨しています。
ちなみに、FinaleでオーディオドライバにDirectSoundを選んだ際にオーディオ出力デバイスとして初期設定されている「プライマリ サウンド ドライバー」とは、Windows OSが指定するサウンド・ドライバです。
これが選択されている場合はWindows OS内での処理が追加されることでシステムの負荷が増える可能性があるようです。プレイバックの音やキャレットの動きに遅延などが見られた際、出力デバイスに「プライマリ サウンド ドライバー」ではなく、オーディオ・インターフェイスやサウンド・カード(この図では「スピーカー(Realtek(R) Audio)」)を直接指定することで解消されたことがありました。
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特にFinaleやPrintMusicについて言えば、オーディオ・ドライバとしては通常はASIOを使用し、何か問題があった場合は他のASIOドライバがあればそれを使用、他のASIOドライバがないがDirectSoundがある場合はそれに切り替えてその場をしのぐ、というのが良いのではと思います。
PrintMusicの場合はFinaleのようにオーディオ・ドライバを切り替える機能はありませんが、アプリケーションを構成するファイルを開いて書き換えることでASIO/WASAPIドライバの読み込みを強制的にキャンセルしてDirectSoundを使う設定にすることができます。
▼Finale/PrintMusicを起動できない(オーディオ・ドライバの指定:Windows)
ほとんど裏技のような方法ですが、これはFinaleでオーディオ・ドライバをUI上で上手く切り替えられない場合でも効果があるため、実際のところ、これはFinaleテクニカル・サポートでは多用されています。
あるいは、起動やプレイバックに関するトラブルを未然回避するために、最初からDirectSoundを使用するというのも良いと思います。楽譜作成ソフトウェアの場合は音そのものではなく楽譜がアウトプットであるため、少なくとも作曲・アレンジ中はプレイバックは聴こえさえすれば十分で、その音質は問題とされないことも多いためです。