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オーケストラ曲を最高のプレイバックで聴く:NotePerformer Playback Engine (NPPE)

執筆者の写真: tarokoiketarokoike

近頃の楽譜作成ソフトウェアはプレイバック機能が向上し、またサードパーティ製音源も充実しています。


これらを組み合わせることで、プロの作編曲家の間でもモックアップ(クライアントなどに聴かせる参考音源)をこれまでのようにMIDIファイルで書き出してDAWで仕上げるのではなく、楽譜作成ソフトウェア上で仕上げる場合が増えていると聞きます。


オーケストラ曲について言えば、サードパーティ製音源のNotePerformerおよびその付属機能であるNotePerformer Playback Engine(NPPE)を使用するのが、現時点ではおそらく最良の方法かと思います。今回の記事では、その組み合わせのいくつかをご紹介したいと思います。


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【2025/3/21更新】この記事には続編があります。宜しければ以下をご覧下さい。

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【目次】


※今回の動画撮影で使用したソフトウェアはDorico Pro 5、コンピュータはMacBook Air M2 2022、16GB RAMで、Iconica Sketchの音源はMac内蔵SSDに、BBC Symphony OrchestraとSpitfire Symphony Orchestraの音源は1TBの外付けSSD(BUFFALO SSD-PUT1.0U3-BKA)にコピーして使用しました。



1.NotePerformer 4(00:05


最初のプレイバックは、楽譜作成ソフトウェアSibelius、Dorico、Finale専用のオーケストラ総合音源であるNotePerformerによるものです。


NotePerformerは楽譜上に入力された記号類や音楽的文脈を分析して生演奏のフィーリングを再現するAIを搭載しており、特別な設定を行わなくても、単に再生音源にこれを選択して再生ボタンをクリックするだけでリアルなプレイバックを得ることができます。


音質はこのクラスの外部音源としては十分に優れており、プレイバックに反映可能な特殊奏法の種類が多く、インストール・サイズは2GB程度と小さく、価格は129米ドル(=日本円で税込¥21,000前後)と比較的安く、どこを取っても非の打ち所がない製品で、楽譜作成ソフトウェアでオーケストラ曲を扱う人にとってはまさに必ず買っておくべきマスト・アイテムと言えます。


なお、Doricoの場合、この譜例にあるように一つのパート内でSoloとTuttiのフレーズが混在している場合は、それぞれを別の声部で入力することにより別々の音源を割り当てられる「声部の個別再生を有効化」という機能があります。


この譜例でも、その機能を使って声部を処理しています。下向き符尾の声部に分離させたソロ・ヴァイオリンはCh.2に設定され、ここにNotePerformer上でSolo violinの音色を手動で割り当てますが、この場合は2種類あるSolo violinの音色のうち「Solo violin (soloist)」を使用した方が良好な結果が得られました。


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2.Iconica Sketch (Doricoに同梱)(01:09


二番目のプレイバックはDoricoに同梱のIconica Sketchで、つまり追加購入のものは何も使わず、Doricoのみでプレイバックした時のものです。


やや音量が小さい点で前のNotePerformerによるプレイバックの方が良く聴こえるかも知れませんが、各楽器の質感はNotePerformerよりも優れているように感じます。


ただし、楽器間の音量バランスはあまり良好ではなく、ミキサーで調整したくなる箇所が多くあります。また、個々のフレーズを注意深く聴いてみると、発声タイミングや音の繋がりがやや不自然に感じられる面がありますが、これは製品仕様上やむを得ない部分かも知れません。


ソロ・ヴァイオリンについては、Halion Symphonic OrchestraのViolin Solo Combiの音色を手動で割り当て、ミキサーで音量バランスを整えています。

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3.Iconica Sketch + NPPE(02:13


三番目のプレイバックは、NotePerformerおよびその付属機能であるNotePerformer Playback Engine(NPPE)をDoricoに同梱のIconica Sketchと組み合わせたものです。


NPPEは、先にご紹介したNotePerformerの優れた再生機能を他社製の音源に適用しながら使用できるというユニークな製品で、このプレイバックでは、先ほど聴いたばかりのIconica Sketchの音質はそのままに、演奏が一気にレベルアップしていることが容易に分かると思います。


NPPEを使用する場合は音源ごとにプレイバック・エンジンを59〜89米ドル(税込8,700〜13,100円前後)で別途購入する必要がありますが、現時点ではDoricoに同梱のIconica Sketchのプレイバック・エンジンのみは無料で使えますので、DoricoユーザーはNotePerformerを買うだけで、オーケストラ曲についてはこのクオリティのプレイバックをすぐに楽しむことができます。


設定は簡単で、NPPEを起動し、プレイバック・エンジンを選択し、楽器を選択するだけです。NPPEが動作しているかどうかは、プレイバック中にNPPEのレベル・ゲージが動いているかどうかで確認できます。



なお、Iconica Sketch、そして後述のBBCSO CoreやSSOにはNPPEに読み込み可能なソロ・ヴァイオリンの音源がありませんが、この場合はNotePerformerのSolo Violinの音色が自動的に割り当てられます。


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4.BBC Symphony Orchestra Core + NPPE(03:19


BBC Symphony Orchestra Core(BBCSO Core、449米ドル、税込¥66,500前後)を持っている人は、69米ドル(税込¥10,200前後)でBBC Symphony Orchestra Coreのプレイバック・エンジンを購入することで、お手持ちのBBCSO CoreをNPPE上で使うことができます。


このBBSCO Coreはインストール・サイズが25.5GBほどあるので、パソコンの内蔵ディスクに余裕がない場合は外付けのSSDにインストールして使用する必要がありますが、Doricoに同梱のIconica Sketchと比べると各楽器の質感は高く、特に中低音がより高密度かつ豊かな感じを受けます。


また、今回のテスト環境では、音源を読み込んだ直後のプレイバックでは最初の1〜2小節ほど全ての楽器で音が出ない、特定の楽器の音しか出ない、ノイズが入るといった問題が見られましたが、これらはプレイバックを数回繰り返すことで自動的に解消されました。



5.Spitfire Symphony Orchestra + NPPE(04:23


Spitfire Symphony Orchestra(SSO、629米ドル、税込¥93,000前後)を持っている人は、89米ドル(税込¥13,100前後)でSpitfire Symphony Orchestraのプレイバック・エンジンを購入することで、お手持ちのSSOをNPPE上で使うことができます。


このSSOはインストール・サイズが348GBとかなり大きいため、外付けSSDにインストールして使うことが多いかも知れません。


また、SSOは音源の読み込みに時間が掛かるようです。今回のテスト環境では、Vln1+Vln2+Vla+Vlc+Cbの5種類の楽器を用いたこのサンプル曲の場合、音源読み込み掛かった時間は、Iconica SketchとBBSCO Coreはそれぞれ7秒弱でしたが、SSOでは2分ほど掛かりました。


BBCSO Coreと比べるとサウンドはよりニュートラルで、音の解像度が高いように感じます。音源をロードした直後のプレイバックはBBCSO Coreのように音が出ないということはなく、1回目で完璧なプレイバックが聴ける場合もありますが、たまにノイズが入る場合もあり、その場合はBBCSO Coreと同様に正常化するまで何度かプレイバックを繰り返す必要があります。


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6a.フレーズ毎に切り替え(1)229小節から(05:28


こちらはIconica Sketch、BBCSO Core、SSOをそれぞれNPPEと併用した場合について、最初の7小節を切り取って並べて比較したものです。


音質的にはIconica Sketchも十分なクオリティですが、BBCSO CoreとSSOの方が解像度の面でやや優っているように感じます。BBCSO CoreとSSOでは、最初のコードの鳴り終わり部分の処理に違いを聴き取ることができます。



6b.フレーズ毎に切り替え(2)240小節から(06:51


こちらは最後の5小節を切り取って並べることで比較したものです。音質的にはBBCSO CoreやSSOが良さそうに感じられますが、この二つはIconica Sketchと比べると音の発生タイミングがごく僅かに遅れているように感じられます。


特にSSOは毎回確実に同じ演奏をしてくれるとは限らず、この動画では242小節目のフォルテは掛かる位置が1拍後ろにずれてしまっています。


これはIconica Sketchの4.66GB、SSOの348GBというインストール・サイズの違いに起因する現象かも知れません。公式ウェブサイトである「Playback Engines QUICKSTART GUIDE」にも書いてあるように、NPPEは、基本的にハイスペックなコンピュータでの使用が求められます。


特にSSOのような大容量音源の性能を十分に発揮させるためには、よりハイスペックなコンピュータが必要ということなのでしょう。スペックが十分でないコンピュータでNPPEを使用する場合は、自分が録音監督になったつもりでプレイバックが正確かどうかを入念にチェックする必要がありそうです。


BBCSO CoreとSSOの音質は互角で、このレベルになると両者の差は質の良し悪しではなく、好みの問題かも知れません。その点では、音源のロード状況に注意を払いさえすれば、インストール・サイズが小さく、ロード時間が短く、価格も安いBBCSO Coreの方が使い易そうです。


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私が音大で学んでいた2005年頃は、作曲専攻の学生であっても自作品のオーケストラ収録を体験できる機会は、在学中に数回あれば良い方でした。


それを考えると、好きな時に気軽に使えて、面倒な編集作業や難しい設定無しに簡単操作でこのクオリティのプレイバックが得られるNPPEは、特に音大生にとっては夢のような製品だと思います。


あとはNotePerformer+BBCSO Core+NPPEで総額97,700円前後、NotePerformer+SSO+NPPEで総額127,100円前後という価格をどう考えるかですが、そもそも、音楽制作ソフトウェアにおいて外部音源を別途購入するというのは、楽器を買うのと本質的には同じことです。


これらは相場感としては学生がバイト代で購入するギターやキーボードなどと同程度で、このコストで自分だけの専属オーケストラを手に入れられるのであれば、これはかなり安価と考えて良いかも知れません。


最後におまけとして、今回事例として用いたA. Schoenberg「Verklärte Nacht Op.4 (Transfigured Night)」の生演奏動画の一例を掲載しておきます。


これと聴き比べることで、楽譜作成ソフトウェアのプレイバックは生演奏には及ばないものの、それに迫る可能性は感じられるかと思います。


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【お知らせ】

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